日本代表もサポーターもご注意を! ブラジルのえげつない渋滞事情

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 ところが、乗ってすぐに、最初の異変に気づきました。
 車内が異常に寒いのです。運転手はなぜか平気そうですが、こんなの絶対にあり得ない、というくらいのエアコンの効きっぷり。運転席を覗き込んでみると、設定温度は17度(!)になっています。そこで運転手に英語で話しかけました。
「イッツ・コールド! フリージング!」
 しかし、こんな簡単な単語ですら、どうやらまったく通じていないようです。運転手はポルトガル語でなにやら聞き返してくるばかり。残念ながら、こちらはポルトガル語がまったく理解できません。念のため、“Can you turn down the air conditioner?”とも言ってみましたが、もちろん通じません。ネクタイまで締めたエグゼクティブタクシーのくせに……。
 しょうがないので、体を震わせ、「ブルブルブル!」と言いながら、エアコンを指差すこと数度。ようやく運転手は理解してくれたようで、温度を上げてくれました。

 次の異変に気づいたのは、乗車後10分ほど経った頃でしょうか。渋滞が始まり、車が進まなくなりました。20分、30分……。渋滞が解消される様子はまったくありません。
 どうせ通じないだろうことはわかってはいましたが、いちおう「他の道はないのか?」と英語で聞いてみました。運転手はやはりポルトガル語で返してきますが、何を言っているのか一切わかりません。そして、キャンディーをひと粒くれました。

 乗車後1時間半を過ぎた頃、さすがに運転手も焦ってきたようです。初めて向こうから声をかけてきました。いわく、
「タイム? ブ~ン」
 右手を伸ばして、飛行機が飛び立つ真似をしています。どうやら飛行機の出発時刻を聞いているようです。私は叫びました。
「テン! テン・オクロック!」
 運転手は「シン」(ポルトガル語で「イエス」のこと。これだけはわかる)とうなずきました。

 結局、渋滞を脱け出したときには、乗車からなんと3時間以上が経過していました。ホテルから空港までかかった時間は、3時間40分。その間、エグゼクティブ運転手と私が意志を通わせることができたのは、「ブルブルブル!」と「タイム? ブ~ン」の2回だけでした。

 ブラジルでは実に64年ぶりの開催となる、サッカーのW杯が開幕しました。リオでも、かの有名なマラカナンスタジアムで決勝戦が行なわれることになっています(このスタジアムで起きた64年前のドラマについては、『マラカナンの悲劇』に詳しく描かれています。著者は、ヒクソン本の取材&翻訳を担当してくださった沢田啓明さん)。そして2年後には、リオでのオリンピックも予定されています。しかし交通渋滞のえげつなさは、日本での常識をはるかに超えていますので、現在ブラジルへ渡航中の方、およびこれから出発される予定の方はくれぐれもご注意ください。

 ちなみにその後の顛末を簡単に記しておくと、私が空港に着いたのは、フライトの45分前でした。カウンターでは「ノー、ノー。もう乗れないよ」とあっさり断られましたが、必死の粘り腰でなんとか強引に荷物を預け、航空会社のスタッフに誘導してもらい、飛行機に向かうことになりました。
 私と同じ境遇の人が他に3人いて、スタッフに先導された私たち4人は、すべての行列をすっ飛ばして、ダッシュしながら手荷物検査や出国手続きを済ませ、ようやく飛行機の搭乗口までたどり着きました。
 ところが、搭乗口でホッとしてあたりを見回すと、人数がひとり減っています! 私の後ろに続いていたはずの背の高い白人のおじさんの姿が見当たりません。ダッシュしているうちに、はぐれてしまったのでしょうか。
 結局、飛行機の中でも、到着後のダラスの空港でも、あのおじさんの姿を見つけることはできませんでした……。

※ブラジル取材の成果は『心との戦い方』(ヒクソン・グレイシー著)にまとめられています。ぜひご一読ください。

デイリー新潮編集部 担当O

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