【心霊写真】それが顔に見えるワケを本気で科学する

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 古いキズだけらけの廃屋の壁、轟々と流れ落ちる滝、うっそうと茂った森の中、何気なく撮ったスナップ写真のそんなところにあらわれた不気味な「顔」。「かつて不幸にも亡くなった方がいた」などといわくありげな物語が囁かれ、そこに写った「幽霊」に一同恐怖する、なんて夏の怪談を扱ったテレビ番組ではおなじみの光景です。

 偶然目と鼻と口の位置に壁の傷や木の葉があるだけなのに、私たちはそこに「幽霊」を見てしまいます。これはどうしてなのでしょう?

 明治大学教授で超心理学研究の第一人者、石川幹人さんは『「超常現象」を本気で科学する』(新潮新書)のなかで、その理由は大きく二つあり、その二つはどちらも人間が生き残るのに寄与してきた貴重な心理機能だと解説しています(以下、「 」内は同書より)。

■(1)人間の認識機能が「顔」に対してたいへん敏感であること

「顔に対する人間の認識機能は特別に高度で、手足といった他の身体部位を対象とした認識に比べて、非常に洗練されているからです」

 人間は社会的関係のもとに生活しているので、この能力はかなり重要なものだそうです。かつて人間が生活してきた原始的な環境では、見つけた顔が仲間であるか敵であるか瞬時に見分ける必要があったからです。

「また、この顔認識機能は反射的に、つまり無意識のうちに働きます。意識的に『あそこに顔らしきものがある。では誰の顔かよく調べてみよう』などと思考するわけではありません。無意識による反射的な処理が終わった後で、『あれは隣の山田さんだ』といった結果だけが意識へといきなり登場してくるのです」

 つまり、ぼんやりと目・口・鼻状に並んだものを見たときに、「そこに人間は存在できない」という理性的な思考が働く前に顔認識機能が自動的に素早く働いて、「幽霊がいる!」と思ってしまうというわけです。

■(2)恐怖という感情に対する人間の反応がきわめて素早いこと

 石川先生はネズミを例にとり、進化の過程において恐怖が果たしてきた役割を解説します。

「恐怖とは非常に原始的な感情で、人間だけでなく多くの動物が持ち合わせているものです。(中略)もし恐怖感情がなければ、事故にあったり捕食者に食べられたりしやすくなるはずですから、恐怖感が備わっているネズミの子孫こそが今日まで生き残っているのだという考えには、かなり説得力があるでしょう。生物学者は、こうした動物的な進化の過程を経て、人間にも恐怖感が備わったと考えているのです」

 高い所を怖がる人の方が落ちて死ぬ危険が少ない。ムカデやゴキブリを怖がる人の方が病原菌に感染して死ぬ確率が小さい。見知らぬ人を怖がる人の方が敵に襲われる確率が下がる。恐怖感のある人間のほうが生き延びやすいということが以上のような例からもわかります。

「そして、こうした恐怖という感情は、他の感情に比べて素早く作動するのが特徴なのです。(略)恐怖に対応することは一刻を争うからです。危険がせまっていれば、すぐにそれを回避せねばならず、もたもたしていたら一巻の終わりです。(略)そのため、恐怖感は過剰に作用するようにもなっています。不確かな状態でもまず恐怖感が発動し、心拍数が上がり血液循環が高められ、肉体的な回避行動の準備が整えられるわけです」

■幽霊体験は生物学的に当然

「私たちは顔に敏感な認識装置を持ち、部分的な顔の情報から全体を想像します。同時に、見知らぬ人に対しては、反射的に恐怖感を持ちます。その恐怖は素早く、それも過剰に作用するので、無意識のうちに私たちの心の中を占有してしまうのです」

 無意識に巻き起こる恐怖感からはなかなか逃れられません。顔認識機能と恐怖感こそが幽霊体験を生み出していたんですね。

 ただし、石川先生は同書で幽霊体験を「錯覚だから意味がない」と切り捨てているわけではありません。人間の生活における幽霊体験や超常現象の持つ意味を、多様な視点から科学的に検証しています。「オカルトだ」などと一笑に付すことなく、社会に役立ててゆくのが正しい科学者の姿勢なのでしょう。

デイリー新潮編集部

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