どうせ死ぬなら「がん」で死にたい 「がん」は不幸な死因ではない

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 人は誰も、いつかは死を迎えます。しかし「がん」でだけは死にたくない、と思っている人は多いのではないでしょうか。そんな中、『ホスピスという希望―緩和ケアでがんと共に生きる―』(新潮文庫)の著者で愛知県国立病院機構豊橋医療センターの緩和ケア部長でホスピス医である佐藤健先生は、皆さんに「どうせ死ぬなら、がんで死にたい」と思って頂けるような時代を創ることが自身の目標だと言います。

 佐藤先生は著書の中で次のように説明されています。

■がんは老化の一つ

 現在、がんは日本人の死亡原因の第1位で、日本人の3人に1人が、がんで亡くなるという時代になってきています。これは自分自身あるいは、家族の誰かががんで死ぬということを意味する数字です。

 がんという病気は、遺伝子の異常によって生じると言われます。

 人の身体は、細胞でできています。細胞は古くなり死んでいき、新しい細胞が生まれます。その細胞は自分の細胞としての役割を知っています。胃の細胞なら胃の細胞としての役割、肝臓なら肝臓の細胞の役割を認識しており、細胞が古いものから、新しいものに置き換わっても、胃や肝臓は元の形を保って、変化がないようにできています。細胞が置き換わっても、人間は元のままです。しかし、長い年月それが繰り返されている内に、遺伝子の異常が生じてきます。何回も細胞が繰り返し生まれる内に、何かをきっかけに自分の役割を無視し、秩序よく並んだ正常な細胞を乱して、無限に増殖する細胞が生まれてきます。それががん細胞です。

 つまり歳を重ね何回も新しい細胞が繰り返し生れる内にがん細胞が出現するので、がんは老化の一つとも言えます。

■「がん」は不幸な死因ではない

 80歳代以上で、がん以外の病名で亡くなった人を解剖してみると、約半数の人の身体にがんが見つかるとも言われています。その人たちは、がんが死因にならなかっただけです。

 がんで死ぬ人の割合が増えたのは、みんなが長生きするようになり、がんにでも罹らなければ死ねない時代になったということです。

 日本は世界一の長寿国です。ですから世界で最もがん死が多いというのは当然で、変な話かもしれませんが、これは誇らしいことでもあるのです。3人のうちの1人に入る、がんで死んだ人は不幸でしょうか。がん以外が原因で死ぬ、3人のうちの残りの2人は、実はがんに罹る前に死ぬという意味です。心臓病、脳卒中、事故や事件、最も辛いものでは自殺などで、がんに罹る前に亡くなるのです。私はこちらの2人の確率に入る方が辛いように思えます。だから視点を変えて、がんに罹ったら、がんに罹るまで長生きできたんだと考えてはいかがでしょう。がんで死ぬということは、不幸な死ではないということです。

■「がん」はもう痛くない

 それでも多くの人にとって、がんでだけは死にたくないと思うのは、がんは痛みに苦しんで死んでいくという、昔からの悪いイメージが強く残っているからでしょう。でも今は痛みをコントロールできるホスピスがあるので、痛みに苦しむことはありません。しかもがんでの死は突然の死ではなく、死が訪れる前に一定の期間があります。この時がホスピスで過ごす時期であり、死に対して準備をする時期なのです。がんで死ぬということは、自分の人生の総決算をする時間を与えられたとも言えます。

 そんな思いから、ホスピスを充実させることによって皆さんが、「どうせ死ぬなら、がんで死にたい」と思って頂けるような時代を創っていくことが私の目標なのです。

デイリー新潮編集部

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