自身の半生を通じ無二の師の姿を描く/『師父の遺言』

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「あなたは僕のことを伝えてくれたらいいのよ」。かつて武智鉄二は著者の松井さんにそう言ったという。多大な影響を受けた師の姿を、客観的な評伝ではなく自身の半生をたどり、二人の交差を通して描くことで言葉の重みにこたえた。

 時代小説のすぐれた書き手である著者の実家は京都・祇園の料亭である。三歳のとき里子に出され、六歳で両親のもとに戻される。環境の激変は、絶えず周囲を相対化する癖を身につけさせた。

 周囲には絶えずきらびやかな人々が出入りした。幼いとき文楽の名人豊竹山城少掾の腕に抱かれていた、といったエピソードが自慢するでもなく淡々と披露される。...

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