Google、オバマを魅了した「最強」ヒト型ロボット、開発は日本人

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 ITに次ぐ新たな成長分野として、ヒト型ロボットに注目が集まっている。「エコノミスト」や「ニューズ・ウィーク」など、世界の主要な雑誌が次々とロボット特集を組む中で、象徴的な出来事が東京で起こった。

 先日、国賓として来日した米国のオバマ大統領は四月二十四日、超過密スケジュールを縫うようにしてお台場の日本科学未来館を訪問。ホンダが誇る二足歩行ロボットASIMOとサッカーに興じる姿は、多くのニュース番組に取り上げられたのでご覧になった方も多いだろう。

 しかし、続いて壇上に現れた二人の若者に注目したメディアは少なかった。サッカーつながりというわけではないのだろうが、一人はスペインの名門チーム、FCバルセロナ百周年記念のど派手なユニフォームを着込み、丸眼鏡をかけ、髪の毛とヒゲは伸ばし放題。黒いタートルネックのカットソーを着たもう一人は、同じく眼鏡をかけているが、髪の毛を短く刈り込み、痩せ形で、青白い顔をした、いかにも研究者然とした青年だ。ジーパンにスニーカーというカジュアルなスタイルの二人は、百八十センチを超える長身で細身にダークスーツをピシッと着込んだオバマ大統領とは対照的だった。

 そして、壇上にはもう一人というか、もう一体、青く塗装された二足歩行ロボットの姿があった。胴体から上は黒いフレームに収まった駆動システムや配線がむき出しとなったままのこのロボットこそ、実はこの日の“もう一人”の主役だった。

■世界一の二足歩行ロボット

 彼の名前は「S?ONE(エス・ワン)」。ニュース番組やYouTubeなどの動画サイトで、前後左右から思い切り蹴飛ばされても転ばない下半身ロボットをご覧になったことはないだろうか。ホンダのASIMOでもかなわない、そんな高度な技術をベースに製作されたのが、このエス・ワンなのだ。

 昨年十二月、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)がフロリダで「ロボテックス・チャレンジ」を開催。福島第一原発の事故現場のように人間が入ることが困難な環境を想定し、「はしご登り」「でこぼこ道を歩く」「がれきの除去」「自動車の運転」など八種類の活動で、世界四カ国十六チームのロボットが競い合ったこの大会で、日本から参加したエス・ワンは、マサチューセッツ工科大学(MIT)や米国航空宇宙局(NASA)など並み居る強豪のロボットを抑え、ダントツの成績で見事第一位に輝いた。つまり、現時点では二足歩行ロボットで世界一の実力を誇ると言っても過言ではない。だからこそオバマ大統領も、わざわざエス・ワンと“面会”したのである。

■東大発のロボットベンチャー

 前述したカジュアルスタイルの若者二人は、エス・ワンを開発した中西雄飛と浦田順一。東京大学情報システム工学研究室で助教を務めていた二人は、二〇一二年春、大学を飛び出すことを決断。世界をリードするピカイチの技術を持っているにもかかわらず、閉塞しきった大学の中では、いつまでたっても世界一の二足歩行ロボットを完成させるという夢を実現することができない──。

 そんな思いを抱く二人の背中を押したのは、企業再生や経営コンサルタントの仕事をしていた加藤崇だった。

 メガバンクの行員を経て海外の大学でMBAを取得、外資系コンサルタント会社勤務の後、IT企業や技術系ベンチャー企業の経営にも携わった経験のある加藤が、資金集めを担当。起業に向けた奮闘が始まった。しかし、加藤の努力にもかかわらず、出資する日本の大手企業や大手ファンドはなかった。新たな産業育成を目的とする政府系ベンチャーキャピタルも同様だった。結局、加藤は自分が懇意にするベンチャーキャピタルや「エンジェル」と呼ばれる個人投資家から資金を調達し、何とかヒト型ロボットベンチャー「SCHAFT(シャフト)」をスタートさせた。

 追加資金が集まらなければ、半年で潰れてしまう──。

 起業当初、加藤はそんなプレッシャーに苛まれたという。しかし、結果としてSCHAFTは潰れなかった。ちょうどその頃、DARPAがヒト型ロボットを次の重要開拓テーマとすることを発表、世界中からアイディアを募った。SCHAFTはこれに応募し、見事審査を突破、補助金を受けることになったのだ。

■Googleに買収、海外メディアの高い注目

 さらに二〇一三年十一月、加藤はSCHAFTをGoogleに売り込むことに成功する。折りしも二〇一三年、同社でスマートフォン用のOS「アンドロイド」開発を主導してきたアンディ・ルービンは、アンドロイド部門を離れ、ヒト型ロボット事業部門の立ち上げを模索していた。売却は、加藤の友人経由でシリコンバレーへとアクセスし、アンディー・ルービンとの直接交渉に持ち込んだ結果だった。

 せっかく立ち上げた会社を、売ってしまうことに違和感を覚える読者も多いだろう。しかし、日本と比べて遥かに多くのベンチャーが起業され、大企業においても「オープンイノベーション」すなわち、外部のベンチャーを買収することで目的の技術を獲得することが当たり前となっている米国では、自分が始めたベンチャーが最終的にGoogleやアップル、マイクロソフトなどの大企業に買収されることは、起業家にとって最高の名誉だという。

 実際この買収により、SCHAFTの研究者たちはGoogleの潤沢な予算の下、思う存分、ヒト型ロボットを研究・開発する環境を手に入れることになった。同時に、ベンチャーキャピタルとエンジェル投資家は高いリターンを手にした。

 また、十二月に入ると、ニューヨーク・タイムズ紙を皮切りに、ウォールストリート・ジャーナル、フィナンシャル・タイムズ、BBCがこの買収を伝えるなど、海外メディアは高い関心を示した。

 さらに、前述したロボテックスでの圧倒的な勝利は、折りからのロボットブームを背景に、SCHAFTへの注目度を一気に高めた。

■技術者+経営者が切り拓いた成功

 それにしても、いったい、SCHAFTに何が起こったのか。起業して二年足らずで、どうしてここまでの成果を挙げることができたのか──。

 同社の共同創業者としてCFOを務めた前述の加藤崇は、最近刊行した『未来を切り拓くための5ステップ 起業を目指す君たちへ』(新潮社刊)の中で次のように述べている。

「まず何を置いても、中西さん、浦田さんという二人の技術者に、大学を飛び出す覚悟があったことだ」

 ロボットが好きで好きでたまらなかった二人は、大学に残っても、大企業に入っても、結局、自分のやりたいことはやらせてもらえないと悟り、自ら起業する道を選んだ。そこには純粋なるオタクとしての興味・関心に加え、ビジネスの世界に触れてみようという冒険心があった。

「そして、二つ目のポイントは、技術者である中西さん、浦田さんと経営者である僕が出会ったということだ」

 米国シリコンバレーでは、技術者と経営者が出会うことで、これまで商業化されてこなかった分野の技術が一気に開花し、市場が創造されることが多いというが、SCHAFTのケースは、まさにそれに当たるというのだ。

 同書には、SCHAFTでの実体験を導入として、加藤が様々な経験や多くの参考文献をベースに考え出した起業のノウハウを余すところなく記されている。

 自分でビジネスを始めたいと思っている人はもちろん、不確かな世の中を生きていく技術を身につけたい人は参考にしてみてはいかがだろうか。

デイリー新潮編集部

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