即応用可能な発見が満載/『だいじょうぶ認知症』
認知症患者を受け入れる施設の多くは安全のために、患者の買い物や料理などといった行動を制限する。その結果、入居患者は「普通の暮らし」を奪われてしまう。そんな介護の常識を翻し、患者の自由を制限しない介護を求め、実践してきた「介護業界の革命児」が、二七年の介護人生で学んできた「認知症の捉え方とつき合い方」がまとめられた一冊。
多くの人は「親が認知症になったら、その家族は大変」と思いがちだ。しかし、著者は長い介護体験から「一番つらく、悔しいのは本人である」と確信し、この介護スタイルを実践するようになった。そんな著者が、悩みながら介護する家族に対して勧めるのが「認知症と折り合いをつける」ことだ。本書ではそれを、豊富なエピソードを交えて説明している。
例えば「私の大事な母親が認知症になって」と泣き出した娘さんに、著者は「認知症ってちょっと離れてみると面白いこともいっぱいあるやろ」と言う。これによって娘さんは、母が変わってしまったのではなく、母親に取りついた病気が母におかしなことをやらせているだけだと気づき、認知症の症状を笑い飛ばしてやると元気づけられて帰っていく。
また、「徘徊」する患者と一緒に辛抱強く歩き続けた結果、「徘徊」には理由があることを知ったエピソードは感動的でもある。さらに、自分が点滴されていることを忘れ、すぐに点滴の針を外してしまう患者への対応法など、すぐにも応用できる発見が満載。
マニュアル的な対処法では対応できない認知症と「折り合いをつける」ための著者の体験談に共通するのは、認知症患者がなぜその行動を取るか、その気持ちを知ろうとする努力の大切さだ。
認知症で要介護度5の父がいる私としても、同じ悩みを抱える人に本書を勧めたい。また、親が認知症にならないか心配だという「認知症介護予備軍」の人にも、本書では冒頭の章で認知症の兆候が一一例、わかりやすく示されているのが参考になる。