ビートたけし「おいらが都知事だったら」

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おいらの開会式

 今回の都知事選で、ほとんどの候補者が言っていたのが「オリンピックを成功させる」ということ。

 舛添要一なんかは選挙公報で「史上最高のオリンピック・パラリンピック」とうたっている。

 史上最高って収益なのか、観客動員なのか、何を目指しているのか分からない。

 しかし、史上最高のオリンピックといえば、誰もが思い浮かべるのが、ヒトラーが一九三六年に行ったベルリンオリンピックだろう。

 女性映画監督レニ・リーフェンシュタールが「民族の祭典」として映画化している。あの映画を見ると、あれが史上最高のオリンピックだとしか思えないよ。舛添はヒトラーを目指しているのかって。

「史上最高」って言うのなら、イラク出身女性がデザインしたカブトガニのような新国立競技場をまず何とかしてほしい。

 もし「民族の祭典」を超えるようなオリンピックをやりたいのであれば、新国立競技場のデザインは、第一に演出家と競技者に相談しなければダメだよ。

 設計者というのは、とにかくその建物をよく見せることしか考えていない。だから、出来上がったのはいいが、後から使い勝手が悪いと批判されてしまうような間抜けなものが少なくない。

 世界に向けてオリンピックをどう発信していくつもりなのか――。世界中百何十カ国から集まってきた選手団をどこに待機させるのか、入場口はどこに作るのか、すべて演出プランによって変わってくる。だから、演出家と相談しながら設計すべきなんだよ。

 おいらは「新しい競技場には地下を掘れ」と言っているんだけどね。

 その地下に選手団を待機させる。おいらの演出アイディアでは競技場の上から宇宙船が下りてきて、パカッとドアが開いてはしごが降りてくる。観客からは見えない部分で宇宙船と地下の通路がつながっていて、地下から選手団が出てくるわけだけど、会場からはいかにも宇宙船の中から大量の選手が出てくるように見える。

 イリュージョンの手法だけど、そういうことだって演出プランがあるから、設計のアイディアだって湧いてくる。

 それぞれの競技だって、撮影の仕方で見せ方が全然変わってくる。おいらだったら、たとえば槍投げなら投げる瞬間は必ず横とか下から撮りたいし、槍が飛んでいくところは俯瞰だね。

 どこにカメラを置けばいいかは演出プランによって全然違うんだよ。

 設計デザインだけが先行したって、ロクなものにならない。あのカブトガニのような新国立競技場が演出とか利便性を考えているようにははなから思えないんだ。

 そのうえ、あまりにもヘンテコなデザインだと、建築が難しくて、現場の職人が命を落とすことだってある。

 総工事費も予算は当初千三百億円だったけれど、どんどん膨らんでいくよ。もうすでに設計変更しても千七百億円とか言っている。建築後だって、年間維持費が四十億前後もかかるという。赤字垂れ流しの施設になるに決まっているだろう。

 デザインも外国人ならば、演出も外国人ということになりかねないね。それでも浅利慶太が演出するよりか、はるかにマシかな。

 浅利慶太が総合プロデュースした長野オリンピックの開会式は何しろひどかった。土俵をイメージしたメインステージで、寒い中、横綱曙始め幕内力士に土俵入りやらせたんだ。いったい何を考えているんだと思ったね。

 浅利が主宰する劇団四季なんて「キャッツ」とか「オペラ座の怪人」とかみんなブロードウェイで当たった演目を日本に持ってきただけじゃないか。

 今度の東京オリンピックでは、安倍首相と最近仲がいいとされるプロデューサーの秋元康あたりも下馬評で候補に挙がっている。新国立競技場でAKBを見させられるのかな。ご免こうむりたいね。

 ここでひとつ、開会式のたけし版演出プランを披露してみようか。

 おいらだったら、開会式は日本が焼け野原から復興していく様子を見せるね。

 東京大空襲があって、広島・長崎に原爆が落とされて、キノコ雲が立ち昇る。

 焼け野原になった東京に、傷痍軍人たちが松葉杖ついたりして現われる。戦争で傷ついた兵隊さんのパラリンピックだ。

 焼け跡にアメリカの選手団がジープに乗って現われて、子どもたちが「ギブーミーチョコレート」と追いかける。

 それから高度経済成長期に入って、突貫工事で工場や建物が次々建てられる。

 工場の煙から光化学スモッグが起きて、排水からはイタイイタイ病も水俣病も生じてくる。出演者全員がマスクして下向いて、とぼとぼ歩いている。

 日本の高度経済成長が、どんなものだったか、光の部分も影の部分も全て見せてしまいたいね。

 今日の発展した日本になったところで、原発の形をした聖火台が吹っ飛ぶ。そして新しい聖火台が作られて、日本が復興したところで、宇宙から宇宙船がやってくるというのは、どうだって。

 北京オリンピックは中国五千年の悠久の歴史を演出したし、ロンドンオリンピックは産業革命からイギリスが発展してきた歴史を見せた。だったら、日本は戦後復興しかない。

 でなければ、もっと昔にさかのぼって遣唐使ぐらいからの歴史を見せるかな。元寇からでもいい。朝青龍が馬に乗って矢で日本人を襲っているところに、台風が来て朝青龍が吹き飛んでしまう。

 いっそのこと、富士山が世界遺産になったこともあるんだし、富士山そのものを聖火台にするというのも面白いね。聖火ランナーは死ぬ気で頂上を目指す。

 ついでに富士山の麓、御殿場あたりを整地して競技場にしてしまう。

「富士山って、東京じゃないじゃないか」とつっこんでくる人間がいるかもしれないから、神奈川から静岡あたりまで周辺の都市を全て合併してしまって、富士山は東京にあることにしてしまう。

 その名も「大東京オリンピック」。

 どうせやるなら、そこまでやったらどうなんだ。

 えっ、やっぱりたけしにはまかせられないって?

[著者]ビートたけし

新潮45 2014年3月号掲載

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