古人類学者による現代人への警鐘/『そして最後にヒトが残った』

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 初期人類がこの地球上に登場して約四〇〇万年。その間に、地球上には二〇種類以上の「人類」が誕生した。そのほとんどは絶滅し、現在世界中に七〇億人いる人類はホモ・サピエンス、すなわち「ヒト」だけである。進化を単純に考えると、最も優秀な種だったからヒトだけが生き残ったと言いたくなるが、古人類学の第一人者である著者は、それを否定する。

 著者が繰り返し述べるのは、我々ヒトだけが生き残れたのは「運」がよかったからにすぎないということ。初期人類は、地球全体が氷に覆われる氷河期にも、ジャングルがその勢力を増す温暖・湿潤期にも対応するため、よりよい生活環境を求めて常に大移動していた。その行きついた先が不適切な場所であれば、その種は絶滅してしまった。ヒトはたまたま運良く適切な場所にいて、ネアンデルタール人はそうではなかっただけだということを、本書では膨大な古生物学的証拠を挙げ、丹念に描いている。

 本書のキーワードは「弱者の生き残り」である。例えば著者はヴィクトリア朝時代の英領ジブラルタルの飲料水事情を例に挙げてこう言う。貧富の差の大きかったジブラルタルでは、富める者は貯水池や井戸を所有していたが、貧しい弱者は汚い水を飲むしかなかった。しかし、突如訪れた大干ばつで井戸や貯水池の水さえ涸れたその時に、生き延びたのは普段から悪条件下で汚い水を飲んで生活していた弱者だった。ヒトは人類史を通じて弱者だったので悪条件下に追いやられたが、そこで工夫を重ねて臨機応変に生き残ってきたイノベーターだった。それゆえ、たび重なる気候変動でも生き残れたというのが本書の趣旨である。

 この壮大な五〇万年のドキュメンタリーを通して著者は現代人に警鐘を鳴らしている。テクノロジーなしに生きられなくなった我々は、将来の地球規模の大変動を生き残れるのか。ヒトの大繁栄なんて、人類の歴史と比べたらほんの一瞬に過ぎないことを改めて思い知らされる一冊だ。

[評者]鈴木裕也(ライター)

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