北の海のアイドルは今 被災地で出会った奇跡

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「北の海のアイドル」といっても、「あまちゃん」のことではありません。ダイバーたちの間で絶大な人気を誇る小さな魚、ダンゴウオのこと。

■海底の瓦礫の中に残った命

 震災、津波から3年の月日がたちました。震災直後に岩手県宮古市の海に潜って、海の底から津波の被害を撮影したカメラマンがいます。

 水中写真家・鍵井靖章さん。彼が震災直後の海に潜ったとき、魚の姿はほとんど絶えて、流されてきた瓦礫ばかり目についたといいます。そんな暗い海のなかで、唯一出会えた魚が、ダンゴウオでした。ダンゴウオとの遭遇に勇気付けられた鍵井さんは、その後、定期的に宮古の海に潜り、海藻が増え、魚たちが産卵、孵化し、少しずつもとの姿を取り戻していく過程を撮影し続けました。その成果は、震災から2年目の昨年2月、写真集『ダンゴウオ―海の底から見た震災と再生―』(新潮社刊)にまとめられています。

震災直後の暗い海のなかで、唯一出会えた魚が、ダンゴウオでした。

■車を棲家にする魚たち

 震災の直後に現地に駆けつけたカメラマンはたくさんいます。しかし、現地の写真家はともかくとして、1年、2年と継続して通いつめ、同じポイントを見つめて記録し続けている人は、数えるほどしかいないでしょう。鍵井さんも、2年目を機に刊行した写真集で一区切りついたわけなのですが、彼は今もなお、宮古に通っています。そして、2年目で記録した「再生の海」が、さらにたくましく息吹を取り戻している様を克明に記録しています。

 瓦礫となったタイヤにワカメが芽吹き、錆びてゆく車が格好の漁礁になっている。そんな写真集に記録された様子が、震災から3年目になると、もはやそれが瓦礫なのかどうかも見分けがつかなくなってきています。いまだに整理されることなく、海底に放置されたままの瓦礫には胸が痛みますが、その瓦礫に根を張り、あるいは棲家として生きている海藻や魚たちの姿を見ると、復興の遅れている人間世界に励ましのエールを送っているようにも見えます。

 震災3周年を機に、東京ミッドタウンで、新作も含めた鍵井さんの写真展「3.11―あの日から」が開催されます(3月7日(金)~20日(木) 富士フィルムフォトサロン東京)。ダンゴウオの生きる海は3年を経てどんなふうに変わったのか? ぜひご覧下さい。

瓦礫となったタイヤにワカメが芽吹く。

デイリー新潮編集部

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