身近で「スモール」な最新科学の魅力/『あくびはどうして伝染するのか』
あくび、しゃっくり、くしゃみ、おなら……これら科学の世界で過小評価されてきた人間の原初的な行動たち。著者はこれらの行動から人間の本性を探る研究の草分け的存在である。著者が独特なのは、そのために大がかりな道具や莫大な予算をまったく必要としない「スモール・サイエンス」の手法を選んだことだ。
タイトルにあるあくびの伝染性を証明する実験も実に「スモール」。連続してあくびをする人のビデオ映像を見せ、本当にあくびが誘発されるかを確かめていくだけなのだ。さらにあくび顔ビデオの顔の一部だけを見せて、あくび顔のどの部分があくびを誘発するかを調べていく。そうしたスモールな実験を重ね、最終的には退屈だから人はあくびをするのではないことを実証し、あくびはある行為から別の行為への移行を促進するための動作ではないかという仮説を見出していく。
スモールだが、思わずワクワクしてしまう実験はあくびにとどまらない。例えばくしゃみの調査においては、友人や生徒たちの協力を仰ぎながら、鼻をつまんでくしゃみしてみる、歯を食いしばって、目を見開いてと、様々なバリエーションでくしゃみをしてみる。その結果、くしゃみには目を閉じる行為が関連していることが明らかになってくる。
著者の独特さは実験姿勢だけでなく、科学的考察にも表れる。例えば、くしゃみとあくびの初期吸気段階の表情はオーガズム時の表情と似ていることを検証する計画を提言したり、おならによるコミュニケーションの可能性を示唆したり、くしゃみは性的関心の正直な表現ではないかとの仮説を立てたり……。あくびに代表される「奇妙な行動」から最新科学の新説や提言を次々と打ち出していく。
これらの新説や提言は、子供たちには夏休みの自由研究としても検証可能であり、大人にも「私も実験できるのではないか」という気持ちを起こさせるものばかり。科学の楽しさを改めて思い知らせてくれる一冊だ。