【涙なしには読めない】オヤジ泣き本ランキング ベスト10

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 第1位自殺(末井昭 朝日出版社)。笑って語れる自殺の本を書いて欲しいという編集者からの無理難題に応えてしまう末井昭という人の、自殺に何らかの形で関わってしまった人への視線はどこまでも柔らかい。その視線で人間を少し引いた位置から眺めてみるとなんともいえないおかしみがこみ上げてきて、どうしようもない人をも許すことができるようになるみたいです。そして自分のこともそうやって眺めることができれば、人はなんとか生きていくことができます。反対に自分や周りの人をカチカチに固まった視線でしか見られない人は、なにか壁にぶつかったときに簡単にポキッと折れてしまうのでしょう。

 2位は想像ラジオ(いとうせいこう 河出書房新社)。東日本大震災以降の日本での小説の役割とは何かという問いに真正面から向き合った作品と思います。いまだに故郷に帰れない人が数多くいることを忘れてはいけないとよく言われますが、さらに必要なのは一瞬で人生を奪われてしまった人の声に耳を傾け続けることではないのか。でも、どうやって? 想像することによってです。そして面白いことに、時代遅れと思われていたラジオのほうがテレビよりもなぜか人間の想像力を呼び覚ます力があるみたいです。

 3位はエンダーのゲーム〈新訳版〉(オースン・スコット・カード 早川書房)。常々思うのですが、数多くある日本のロボットアニメの主人公はなぜ少年なのでしょうか。最前線で戦う少年が彼の意志とは関係なく兵器の操縦能力において天才的な力を発揮したりして、戦いたくない! 普通の少年に戻りたい! なんて悩んだりします。そしてこの作品こそ多くの少年戦士モノの元ネタなんじゃないかと思えてきます。テーマ、ストーリー、キャラクター、いずれにおいてもルーツにして最高傑作、涙なしにはページをめくれません。

 4位はノーサイドじゃ終わらない(山下卓 幻冬舎)。ラグビー部時代の先輩がヤクザの事務所にマシンガンをもって襲撃して返り討ちに遭うというわけのわからない出来事の謎解きが一つの要素。加えて、先輩の葬儀のために地元に帰った主人公が疎遠になってしまった高校時代の仲間達と再会し、謎解きの過程でそれぞれがすごした15年を一生懸命追いかけるうちに、しだいに心を通わせていく様子が絶妙に描かれています。うまい! 大人の青春とでもいうものが、取り戻された友情とともに胸に迫ってきます。

 5位は新宿スペースインベーダー―昭和少年凸凹伝―(玉袋筋太郎 新潮社)。1967年新宿生まれの著者が自分の少年期を描いた私小説。駄菓子屋、銭湯、ゲームセンター、主人公の通った幼稚園、小学校、中学校、みんななくなってしまった新宿を43歳の主人公が酔っ払いながらさまよいます。バブルのせいなのか、少子高齢化のためなのか、グローバリゼーションの影響か。彼の記憶をたどるうちに、読者も自分の少年時代の記憶を細かく思い出すことでしょう。懐かしさ100%です。

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 6位はチェイサー(コージィ城倉 小学館)。昭和30年代を舞台に、手塚治虫の影を追い続けたひとりの漫画家を描いた作品です。主人公は編集者の前では手塚を否定するようなことを言いますが、実は手塚になりたい! と思うほど崇拝しています。手塚が聴いている音楽を聴き、食べているものを食べ、同じように編集者から逃げようとする。そこまで人を惚れ込ませる手塚のすごさが逆に浮かび上がってくるようです。昭和の漫画の現場は熱い!

 7位は全国飲食チェーン本店巡礼(BUBBLE-B 大和書房)。町の中がチェーン店ばかりになってつまらないなどとつい口走りがちな私ですが、慣れない町でお腹が空いたときや時間があまりないとき、安心して入れるのがチェーンの飲食店であることもまた事実。そして現在どんなに大きなチェーンとなっていても、必ず最初の一軒があるわけです。創業社長が3万7000円の元手でラーメンの屋台を始めたのが当社の始まり、なんていわれると日本にもそういう成功物語があるんだなと感動します。ちなみに著者は女性誌「an・an」に取材されたらしいのですが、その号は「女性には理解できない男性の趣味特集」だったそうです。泣けます。

 8位は家族喰い――尼崎連続変死事件の真相(小野一光 太田出版)です。泣きは泣きでも、恐ろしくて泣いてしまう種類の本です。この事件の首謀者の恐ろしさは半端ではありませんでした。下手な小説よりも絶対怖い、しかも後味が最悪な一冊。

 9位はウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗(円谷英明 講談社)。研究本が昨年も多数刊行されるなど、ウルトラマンに対する人気はいまだに衰えをみせていません。しかしそのウルトラマンを生み出し、特撮の歴史を開いた「円谷プロダクション」の経営から創業者一族は追放されてしまいます。番組を芸術作品ととらえ、採算度外視で作ってしまう姿勢は創業当時からで、経営感覚を持った人物はこの同族企業にはいなかったようです。

 最後は本屋である私の個人的な関心事についての本で、本の逆襲(内沼晋太郎 朝日出版社)。「書店」は減っても「本屋」は増える。空間としての「書店」から、人と人とのつながりを媒介するメディアとしての「本屋」へ、本を扱う場所は進化しているという考え方が実現できたら感動的です。

[著者]笈入建志(おいり・けんじ 千駄木・往来堂書店店長)(千駄木・往来堂書店HP

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