佐村河内問題 なぜ今、新垣氏は真実を明らかにしたのか?
「現代のベートーヴェン」「全聾の天才作曲家」としてもてはやされ、NHKスペシャルでも大絶賛されていた佐村河内守氏。だが実は18年間にわたり、桐朋学園大学の講師である新垣隆氏にゴーストライターを依頼していたことが明らかになり、衝撃が走っている。
新垣氏の会見では、佐村河内氏の耳は聞こえていたことや楽譜が書けないことなど、とんでもない事実が暴露された。しかしどうしてこのタイミングでこの事実を明らかにしたのか、という疑問を誰もが持ったことだろう。新垣氏はソチオリンピックで高橋大輔さんが佐村河内氏による作曲とされていた『ヴァイオリンのためのソナチネ』を演技で使用してしまうことを挙げ、「偽りの曲で演技したではないかと、世界中から日本に非難が殺到するかもしれません」と会見を開くことを決めたと語った。18年間事実を隠し通し、大勢の人々をお涙頂戴話で欺いてきた割に、どうにも腑に落ちない答えである。
そこで注目を集めたのが昨年10月に発表された一本の記事の存在である。その記事が新垣氏を追い詰め、真実の公表へと踏み切らせたのだ。
■野口剛夫氏による問題提起「聞こえている?」
昨年10月に発売された「新潮45」11月号のなかで、音楽家・野口剛夫氏による『「全聾の天才作曲家」佐村河内守は本物か』という記事が発表された。
同記事の中で野口氏は、佐村河内氏が全聾であるということや被爆地出身であるということを声高に叫び、悲劇的境遇を売り物にする姿勢に疑問を感じ、お涙頂戴的な虚像で聴衆を欺いているのではないか、と問題提起している。
■音楽性への疑問も
また音楽家である野口氏は彼の音楽の持つ「真実性」にも疑問を呈している。
「過去の巨匠たちの作品を思わせるような響きが随所に露骨に表れるのには興ざめするし、終始どこか作り物、借り物の感じがつきまとっているため、音楽の主張の一貫性、真実性が乏しく、作品としての存在感は希薄になってしまうのだ。」(野口)
また佐村河内氏の交響曲をムード音楽的な感性で書かれたものだと述べ、
「彼の精神はもともとクラシック的なのではなく、クラシックへの憧憬なのではなかろうか。」(野口)
と、真実を知ったうえで読むと、まさに核心をずばりとついた考察である。
■新垣氏追い詰められる
週刊文春によると、昨年12月にこの記事を読んだ新垣氏が追い詰められ今後の展望を悲観。佐村河内氏に野口氏の記事は「第三者による、ほぼ真相を突き止めてしまったもの」とメールで送り、ゴーストライターを辞めたいと伝えるも佐村河内氏は納得せず、決裂。そして騒動に発展した。
佐村河内氏が18年にわたり作り上げた虚像を暴いたのは、まっとうな音楽家のたしかな耳と、勇気ある問題提起の声だったというわけだ。
「新潮45」2013年11月号掲載『「全聾の天才作曲家」佐村河内守は本物か』全文は現在各電子書籍ストアで発売中。
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