老練の政治評論家初の長編小説/『神々の欲望I 少女の見た夢』

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 政治に関心がない人でも「矢野絢也」の名前は知っているに違いない。一九六七年から一九八六年まで約二十年の長きにわたり公明党の書記長を務め、離合集散を繰り返す政界の荒波を経験してきた。党委員長、顧問などを経て、九三年に政界を引退してからは、政治評論家として、裏情報に通じた独自の鋭い読みを発表してきた。その老練の政治評論家が八十路を越えて、突如、刊行した書き下ろし長編小説が本書だ。

 当然、政界の暗部を描くポリティカルサスペンスあたりを予想したが、意外や意外。「古事記」の神話世界と現代が交錯し、世界を巻き込む動乱が勃発するという、奇想天外、驚天動地、荒唐無稽の大スペクタクルなのだ。

 物語は超能力を秘めた十四歳の少女・桔梗が、高天原の神々の争いを幻視したことから始まる。世界を統べる霊力を秘めた宝輪を預かった桔梗を巡り、謎の秘教教団、アメリカ大統領府、CIA、在日米軍、日本政府、自衛隊などが、攻防を繰り広げ、ついには富士山麓の洞窟で日米両軍が交戦する事態に……。派手なアクションの合間には、現代物理論、世界宗教論、現代文明批判、政治批判などが饒舌に展開されている。

 それにしても、突然、現代東京の地下に平将門の霊が出現したり、諏訪大社の主神・建御名方や京都の陰陽師などが登場するのには面食らってしまう。真面目な歴史通などは、眉をひそめるに違いない。

 おそらく、あまりに裏情報を知る著者は、政治評論においては、筆を抑えざるを得ず、鬱屈が溜まっていたのではないか。そこで、書きたいこと、言いたいことを思う存分表現するために小説という形式が選ばれたように思える。しかし、どうせなら、永田町に跋扈する魑魅魍魎たちの生々しい暗闘の方を読みたかった。どうやら、この小説を誰よりも楽しんでいるのは著者自身のようである。

[評者]山村杳樹(ライター)

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