ヒーローの裏側にあった野望と嫉妬/『ウルトラマンが泣いている』

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「ゴジラ」や「モスラ」に心躍らせた世代にとって、円谷英二の名は不世出の天才として記憶に刻まれている。
 この「特撮の神様」によって創設された円谷プロの半世紀にわたる興亡と、彼が残した遺産を継承した円谷一族がたどった栄光と挫折の歴史を描く本書の著者は、円谷プロの六代目社長で、英二の孫に当たる。本書には、家族だけが知る同族内の生々しい葛藤、経営者ゆえ直面せざるを得なかった厳しい現実、時代の変化に翻弄されるキャラクターなど、外部からはうかがい知れない円谷プロの赤裸々な内実が記録されている。
 東宝の出資を受けて円谷プロが設立されたのは一九六三年。テレビの将来性に早くから着目していた英二は一九六六年、TBSで「ウルトラマン」シリーズをスタートさせる。しかし、一九七〇年に狭心症で死去。会社を引き継いだ長男も一九七三年に急死してしまう。シリーズのヒットを受け、キャラクターの商品化権を販売する「円谷商法」は大きな収益をもたらすが、本業の特撮は、制作費のずさんな管理などから赤字続き。財政難から制作の主導権をテレビ局、スポンサー、玩具会社などに奪われ、時代の要求に応えるという名目のもと、ウルトラマンのファミリー化などをすすめ、七二種にも及ぶウルトラマンの亜種を量産するにいたる。飛躍をかけて挑んだ海外進出も文化の壁にぶつかり失敗に終わる。さらに同族経営の定番、お家騒動の続発。結局、二〇一〇年、円谷プロはパチンコ関連会社に買収され、円谷一族は経営陣から追放されてしまう。
 宇宙からやってきたヒーローの物語を子供たちに提供する裏側で展開されていたのは、野望、嫉妬、憎悪、奸計が入り乱れるなんとも人間的なドラマだったのだ。「現実の世界でウルトラマンを悲劇のヒーローにしてしまったのは、我々円谷一族の独善か、驕りだったのでしょう」という著者の述懐は苦く哀しい。

[評者]山村杳樹(ライター)

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