追試される権威/『レオナルド・ダ・ヴィンチ』
レオナルド・ダ・ヴィンチの名を、僕は父の書斎机で教わった。賢そうな広い額と白髭の有名な肖像図版を見せられながら、その名を聞いた。とても小さな頃だ。いつもの聞き慣れた日本人の名とは違い、音楽的な高揚感をもった音が連なり、歌いだせそうなその名を「とにかく偉いんだろうなあ」と、生まれて初めて知る、動かしがたい“権威”として刷り込まれたのだと思う。
本書は、おそらくは歴史上もっとも尊敬を集めた芸術家の、膨大な手稿のうち解剖関連の部分を集め、最新科学の成果をもって再検証するというスリリングな内容で、豊富な美しい図版を眺めながら一気に読み終えられる。...