恐竜の生態が鮮やかに描かれる/『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』
昼の公園などで地面に降り立つカラスを眺めていると、やがてそのシルエットが何かに似ていることに気付く。何だったかな。そうそう、図鑑や映画で見る、いや図鑑や映画でしか見たことのない恐竜ティラノサウルスのそれだ。改めてカラスに目をやる。むろん大きさは別にしてだが、とても「他人の空似」とは思えないことに驚く。
じつは「鳥と恐竜は似ている」どころか「鳥類は恐竜の直系子孫」説は決して荒唐無稽なエセ科学ではない。近年世界中で羽毛をもつ恐竜化石の発見が続いたり、一昨年日本の東北大で画期的な研究成果があったりして、専門家の間でも現在むしろ定説となりつつあるそうだ。東北大の成果というのは、ニワトリ(鳥類)の前肢(翼)を形作るのは従来いわれたように人差し指・中指・薬指の三指ではなく、親指・人差し指・中指の三指が発生の途中で今ある所に収まったものであることが確認されたというのだ。なにあろう恐竜の前肢も親指・人差し指・中指の三指からなっており、これで恐竜と鳥類はよりストレートに結びついたことになる。
本書はタイトルの通り、鳥類学者で恐竜ファンでもある著者が、もし「鳥類が恐竜の直系子孫」なら鳥類学者の自分にも恐竜を語る資格ありとして、鳥類についての知識に基づきながら、恐竜の生態を大胆に推測、再構成する。その際「無謀にも」の言葉はあくまで謙遜で、わずかな化石資料に語らせるしかなかった従来の恐竜世界を色のないモノトーン世界だとするなら、現に生きている鳥についての豊富な知識から再構成されるそれはフルカラーの沃野のおもむきだ。恐竜が一気に身近なものとなる。
たとえば羽毛の起源についての考察なども面白い。現存する鳥類の羽毛には飛翔以外に防御、保温、ディスプレイなどさまざまな機能が認められる。恐竜にあっても性的ディスプレイや幼体の保温用だったものが、やがて飛翔にも用いられるようになった可能性は大いにある。その際、前肢が翼になるためには、前肢がすでに歩行から解放されておらねばならず、つまり二足歩行が前提となる。ティラノサウルスなどの獣脚類が鳥類の祖先として想定されるという。羽翼ではなく皮膜を広げて大空を滑空していた翼竜は恐竜とは別種の爬虫類だが、小惑星の衝突で恐竜ともども絶滅し、地上の哺乳類と空の鳥類とが食物連鎖の下位にいたがゆえに生き延びたというわけだ。
化石からだけでは手も足も出ない恐竜の皮膚の色、鳴き声の種類、植食(草食)恐竜たちの出すゲップの総量、その温暖化への寄与の程度、恐竜もハトやニワトリと同じく首を前後に振りながら歩行していたか否か ……などについて鋭く問い、かつ鮮やかに答えてくれる。