藤井聡太を最強にした「ディープラーニング」ソフト パソコンまで自作
史上最年少の14歳2カ月でプロ入りを果たして以来、藤井聡太二冠(19)は数々の記録を打ち立ててきた。が、「王位」を初防衛した今回の戦いこそは特別な意味を持つ。降(くだ)した相手は天敵のようにその前に立ちはだかってきた先輩棋士なのだ。背景には藤井二冠の“最先端技術”の習熟があった。
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主要八大タイトルを4人の棋士で分け合う4強時代の棋界で現在、トップを走るのは渡辺明三冠(37)だ。藤井二冠は、その渡辺三冠に棋聖戦で挑戦を受けたが3連勝で撥ねのけ、7月に18歳11カ月でのタイトル初防衛と九段昇進を決めた。堂々の史上最年少記録だ。
そんな藤井二冠が苦手としてきたのが4強のひとり、豊島将之二冠(31)。
「今年6月まで藤井二冠はAIの申し子と呼ばれる豊島二冠に1勝7敗と大きく負け越してきました」
とは将棋記者。しかし、
「藤井二冠は王位戦七番勝負で挑戦者の豊島二冠に初戦を落とすも、続けて4連勝してみごとタイトル防衛。また進行中の叡王戦五番勝負でも、藤井二冠は挑戦者として豊島二冠と戦い、2勝2敗と拮抗している。この3カ月間に限れば対豊島戦は6勝3敗。完全に苦手意識を克服した印象です」
パソコンまで自作
9月13日の叡王戦第5局で勝利すれば、新たなタイトルを得て藤井三冠の誕生だ。将棋ライターの松本博文氏は、最近の飛躍のワケについて次のように言う。
「藤井さんは、昨年末から他の棋士に先駆け、ディープラーニング(以下DL)系の将棋ソフトを研究に導入しています。DL系は従来型に比べ、序盤での形勢判断の精度が優れているという評判。藤井さんは従来型とDL系を並行して研究し、最近は序盤の精度もますます上がり、さらに隙がなくなったといわれます」
コンピュータ将棋協会会長で、早稲田大学政治経済学術院の瀧澤武信教授が補足してくれる。
「従来型のAIでは一般的な将棋の常識に則って読み進めた結果の良い手を示すのに対して、DL系ソフトは、局面を画像のように掴んで特徴を抽出したうえで、最後の局面まで見通した時にどれだけ勝率があるかにより手を示します」
かくも優れたソフトなら、全棋士が使えばいいのにと考えてしまうが、
「動かすためには普通のパソコンでは使えず、GPUというパーツを強化する必要があります。高性能のパーツを揃えるには100万円前後のコストもかかります。藤井さんはPCについてかなりの知識があり自作もできますが、他の棋士では難しい。渡辺三冠は今年7月末に専門家にDL系を設定してもらいようやく使い始めたように、誰もが簡単に使えるソフトではありません」(前出・松本氏)
将棋だけにとどまらぬ才あっての無双状態というわけか。藤井二冠の師匠・杉本昌隆八段は、
「まだ19歳。これからも、伸び代がありますよ」
その到達する先はAIにも見通せない?