老後資金1300万円を“Rコイン”につぎ込んで… こうして「あなた」はハメられる! 中高年詐欺の最新手口(1)
被害総額は1300万円。その手口とは……
先頃、特殊詐欺の被害額として過去最高の5億7000万円を騙し取られた事件が報じられた。「そんな大金、ハナから持ってないから安心」なんて自嘲することなかれ。日々刻々と進化する詐欺─―ノンフィクションライターの井上理津子氏がその最新手口に迫る。
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近頃の詐欺の手口のキーワードは「グループ犯」「対面」「スピーディー」だ。ターゲットにされるのは、心が弱った老人ばかりではない。
まず、実際に被害にあった方の話に耳を傾けよう。
「昨年の12月半ば、O産業のKという人から『もうすぐあなたの家に、R社から水色の封筒が届きます。ビットコインのように近い将来値上がりする仮想通貨、Rコインを購入できる権利をあなたが得たからです。弊社は2・2倍で転売しますので、封筒の中をご覧になって、よく検討してご連絡ください』と電話がかかってきたのが始まりでした」
こう語り始めてくれたのは、埼玉県さいたま市に住む明石良夫さん(85)=仮名=だ。
元大手メーカーの技術職。海外勤務も長く、定年後は管理者として迎えられた第2の職場に70歳まで勤めた。その後、去年母が亡くなるまで精力的に介護。傍ら、今も現役時代の仲間とゴルフを楽しむ。独身だが“娘代わり”の姪との交流頻度は高く、高齢の一人暮らしといえども「孤独な老人」とはいえない。
ところが、わずか1カ月半で、老後資金の全てを奪い取られた。
■「スケベ根性が出ちゃったんですね」
「O産業のK」からの電話の後、立て続けに2業者からも同じ内容の電話がかかり、「Rコインは必ず値上がりする。2・2倍で転売できる」と刷り込まれた。そして12月下旬、東京・日本橋のR社から水色の封筒が届き、そこにはRコインの有益性を伝える立派なパンフレットが入っていた。
「先に電話で何人もから聞いていたとおりです。なぜ私が選ばれたのかとR社に電話して聞くと『お近くに支店を開設するので、今後地域的な協力を得ることを願って、ご挨拶のため』と言います。ちゃんとした会社だなと思ったんです」
明石さんは「じゃあ、おつきあいで1万コイン、30万円だけ買いましょうか」と応じた。すぐさま自宅にやって来たR社の社員は「実直な50代サラリーマン」風の男。30万円を手渡した。
年が明けると、再び「O産業のK」から「10万コインまとめてなら、2・6倍で転売します」と何度も電話がかかってきた。
そこで、明石さんは状況を確かめようと、現金を取りに来たR社の社員に電話する。「Rはニューヨーク株式市場に上場した。500万コイン以上を持っていれば、株式にも交換できる」と煽られる。
「お小遣い稼ぎができそうだと、スケベ根性が出ちゃったんですね」
9万コインを追加注文し、270万円を再び手渡した。
■賭け事とも投資とも無縁
「合計10万コインになったから、早く転売先を探してよ」
「はい。今、探している最中です」
「O産業のK」とそんな電話のやりとりをする中、別の業者が「30万コインまとめてなら、すぐに4・5倍で転売できる」と電話を寄越したので、明石さんはさらに20万コインを注文。「R社は『円換算を少しおまけする』と言ってくれ」、1月15日に500万円を払った。
すでに3度現金を取りに来て顔見知りになったR社社員が、その後「Rコインは日本で5億円分しか扱えないので、そろそろ在庫がなくなります」「ベンツのダイムラー社が500万コインまとめてなら買う。50万コインずつ10人から買いたいと言ってきています」と電話してきた。
「その時点で、O産業のK、電話してきた他の業者、R社がグルだと、私はまだ気づいていませんでした。このままなら800万円がふいになりかねない、あと500万円追加して取り返そうと思った。犯人たちの思うツボだったんです」
明石さんは下旬にさらに500万円を渡してしまう。
「ところが、待てども待てども転売は実現せず、R社の社員は『1500万コイン以上でなければ転売は無理』とけしかけてきた。おかしい、騙されたと、やっと気づきました」
明石さんは、これまで賭け事とも投資とも無縁だった。ゴルフ仲間とは、金の話をしないのが暗黙のルール。毎日電話をくれる姪に打ち明けたのは、被害額が800万円に及んでから。姪の夫がR社の所在を確認に行き「怪しい」と伝えてくれたが、「今さら引き返せない」と姪夫婦に内緒で次の500万円を渡してしまったのだ。
被害総額は1300万円に及ぶ。「いずれそれなりの介護付き有料老人ホームに入る時の頭金にしようと残していたお金でした。すっからかんになってしまった。老人ホームに入るには、この家を売るしかないでしょう。遠からぬ将来、私は片道切符で老人ホームに行くことになる……」と、明石さんは肩を落とした。
「特別読物 こうして『あなた』はハメられる! 中高年がターゲット! 詐欺の最新手口集――井上理津子(ノンフィクションライター)」より