南京虐殺は“人数に関係はありません”のお立場「三笠宮殿下」

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 12月2日に100歳を迎えられた「三笠宮崇仁親王殿下」で思い出されるのは、皇族らしからぬ「斬新なお言葉」の数々である。例えば1956年に上梓された『帝王と墓と民衆』(光文社)に付された『わが思い出の記』の中で、1年間ご赴任された南京で見聞した日本軍の行状をこう嘆かれている。

〈一部の将兵の残虐行為は、中国人の対日敵愾心をいやがうえにもあおりたて、およそ聖戦とはおもいもつかない結果を招いてしまった〉

〈内実が正義の戦いでなかったからこそ、いっそう表面的には聖戦を強調せざるを得なかったのではないか〉

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12月2日に100歳を迎えられた三笠宮崇仁親王殿下

 同じ頃、世間では48年にGHQの意向で廃止された祝日・紀元節を復活させようとの気運が高まっていた。そんな中、57年11月13日付「毎日新聞」は、ある歴史学者の祝いの席でなされた三笠宮さまの発言を報じている。

〈二月十一日を紀元節とすることの是非についてはいろいろ論じられているが、カンジンの歴史学者の発言が少ないのはどうしたわけか。紀元節問題は歴史科学に影響するところが大きいと思う。(中略)このさい、この会をきっかけに世話人が中心となって全国の学者に呼びかけ、二月十一日・紀元節反対運動を展開してはどうか。(中略)この問題は純粋科学に属することであり、右翼、左翼のイデオロギーとは別である」〉

 学者の立場から「紀元節に科学的根拠なし」との論陣を張った三笠宮さまは、その後も、

〈紀元節についての私の信念〉(「文藝春秋」59年1月号)

 と題した論文を発表。

〈日本人である限り、正しい日本の歴史を知ることを喜ばない人はないであろう。紀元節の問題は、すなわち日本の古代史の問題である〉

 そう強調され、以下のように結んでおられたのだ。

〈昭和十五年に紀元二千六百年の盛大な祝典を行った日本は、翌年には無謀な太平洋戦争に突入した。すなわち、架空な歴史――それは華やかではあるが――を信じた人たちは、また勝算なき戦争――大義名分はりっぱであったが――を始めた人たちでもあったのである。もちろん私自身も旧陸軍軍人の一人としてこれらのことには大いに責任がある。だからこそ、再び国民をあのような一大惨禍に陥れないように努めることこそ、生き残った旧軍人としての私の、そしてまた今は学者としての責務だと考えている〉

■「毒ガスの生体実験をしている映画」

 こうしたお考えの集大成ともいえるのが、84年に刊行された自叙伝『古代オリエント史と私』(学生社)である。そこでは、

〈今もなお良心の苛責にたえないのは、戦争の罪悪性を十分に認識していなかったことです〉

 と前置きしつつ、南京での実態をさらに詳述され、

〈ある青年将校――私の陸士時代の同級生だったからショックも強かったのです――から、兵隊の胆力を養成するには生きた捕虜を銃剣で突きささせるにかぎる、と聞きました。また、多数の中国人捕虜を貨車やトラックに積んで満州の広野に連行し、毒ガスの生体実験をしている映画も見せられました。その実験に参加したある高級軍医は、かつて満州事変を調査するために国際連盟から派遣されたリットン卿の一行に、コレラ菌を付けた果物を出したが成功しなかった、と語っていました。

「聖戦」のかげに、じつはこんなことがあったのでした〉

■〈昭和天皇にもお見せしたことがあります〉

 南京から帰任する直前の44年1月、三笠宮さまは“若杉参謀”の名で将校らを前に講話をなさっている。軍紀の乱れや現地軍の独走を激しく指弾する内容は「支那事変に対する日本人としての内省」という文書にまとめられ、94年には半世紀ぶりに公表された。当時、月刊誌の取材でご自身は、いわゆる「南京虐殺」についても、

〈最近の新聞などで議論されているのを見ますと、なんだか人数のことが問題になっているような気がします。辞典には、虐殺とはむごたらしく殺すことと書いてあります。つまり、人数は関係はありません〉(「THIS IS 読売」94年8月号)

 そう断じており、

〈中国側は、日本軍の残虐行為を『勝利行進曲』という映画にしていましたが、それを日本側が重慶あたりで没収してきたものを手に入れた私は、東京に連絡で戻った時に、その映画を持っていき、昭和天皇にもお見せしたことがあります。もちろん中国が作った映画ですから、宣伝の部分も多いでしょうが、多くの部分は実際に行われた残虐行為だっただろうと私は考えています〉

 老境に差し掛かってもなお、決して節を曲げることはなかったのである。

「特集 『三笠宮殿下』百寿祝いで思い出す『紀元節反対』と『南京虐殺言及』」

週刊新潮 2015年12月3日号掲載

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